Interview with : Masashi Ichifuru (TGB design.)

Interview with :  Masashi Ichifuru (TGB design.)

現状のラインナップの中に知っている作品はありますか。

市古 : どれも有名な作品だとは思いますが、特に思い出深いのは『フリクリ』と、あとは『王立宇宙軍オネアミスの翼』です。

もしご存知の場合、作品にまつわるご自身のストーリーをお教えいただけますか?

市古 : 『王立宇宙軍』は小学生の時に、初めて自主的に遠出して観に行った映画なんです。祖母に池袋へ連れられて(笑)。正直内容は理解できませんでしたが、子供ながらに庵野さんのロケットのシーンはやっぱり衝撃的で印象深かったです。

地元が井の頭なのですが、昔からあの辺りは漫画・アニメの街で。それこそ当時はまだジブリが吉祥寺で、駅前にはまんがの森があるし、パルコに行けば画材のいづみやがあって、もろにそういう環境で育っていたので、幼い頃から自然とアニメや漫画といったコンテンツは観るにも作るにも身近なものでした。

『フリクリ』は、パッケージとロゴをデザインしました。アニメの仕事は『フリクリ』が初めてで。自分自身アニメには馴染みがあったし好きだったのですが、仕事としてはあまり接点がなかったんです。なので『フリクリ』のデザインは本当に突然舞い込んだ話でした。

©名/NA

監督の鶴巻さんがアニメ業界の中ではすごくデザインにも敏感な方だと思うんですけど、当時からパッケージを重要視していて。

「アニメとかのコンテンツはいずれデジタル配信メインで、パッケージはなくなってしまう。だからパッケージとして売るのであればパッケージ自体に価値が必要だ」と。レコードはもう聴かないけど、ジャケットは存在感があって捨てられないみたいな。だからカッコ良くしてくださいっておっしゃって。ちょうどMP3がで始めた頃だったので、そういう思いが強かったのかもしれません。

加えて、いわゆるアニメっぽいジャケットにはしないで欲しいという要望もあって。どうしたらアニメっぽくならないかを考えて、まずカラー絵を使うのをやめて線画にしちゃおう、裏面の場面写真も絵コンテにしてしまおう、っていう感じで当時常識破りなことを好き勝手自由にやらせてもらいました。お菓子の箱っぽくしたいという監督からのリクエストもあったと思います。

ちなみに各パッケージでロゴを変えたのは、遊び心を加えたっていうのと、当時ロゴをいっぱい作るのがデザイン仲間の中で流行ってて『フリクリ』もその流れで提案して、それがそのまま通った感じですね。

『フリクリ』1巻 パッケージロゴのラフスケッチ

その作品があなたにどのような影響を与えましたか?

市古 : 『フリクリ』をデザインした当時は、デザイナーとしてまだ駆け出しで闇雲に仕事をしていたところもあるのですが、自分のグラフィックデザイナーとしての特性を明確に気づかせてくれました。アニメ関係の仕事は『フリクリ』以降しばらくなくなっちゃったんですけど(笑)。

最近になって『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』シリーズのパッケージや、『キルラキル』のタイトルロゴ&テロップデザインなどに繋がっていきますね。直近だと、『ダーリン・イン・ザ・フランキス』のロゴデザインを担当しています。

ロゴの制作で言うと『フリクリ』はかなり自由だったし、『キルラキル』の時はコンペで、基本的な形は1案しか出していなかったので、ある意味すんなり進んだのですが、『ダーリン・イン・ザ・フランキス』はほんとに最初からの制作で、特にメインのロゴは難産でしたね(笑)。けっこうな量を提案していて、2~3ヵ月は作ってたかな。ただ初めて監督や制作陣の皆さんと深く話しながら時間をかけてロゴを作ったので、すごくいい経験でした。

©ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

アニメ業界のお仕事で面白いのは、クライアントが皆、絵が超上手いってことですね。だから打合せの場では紙と鉛筆が机の中央におかれて、一緒に作り上げていくという。

ラフデザインって普通のクライアント向けだと Adobe Illustrator で作ることが大半で、ほぼ完成版っぽく見えるものを提出することになるのですが、下手に Illustratorデータで出してしまうと、それが完成されたものに思われてしまうことも多くて。違うんですこれラフなんです、って言ってもあまりわかってもらえない(笑)。

それがアニメ業界の場合、割と雑な手書きスケッチでもOKなんだって気づいて。絵が上手い人ってイメージを頭の中でうまく補完してくれるので、手書きでもこちらの意図がある程度伝わるんですよね。

だから『ダーリン・イン・ザ・フランキス』では、パッケージデザインのラフなんかも完全手書きで出していて。この時の経験は今手掛けているアニメのデザイン制作にも生かしています。ただ、たまにこちらの意図を超えて、より高いレベルで脳内補完されるので、これは困ったなと思うこともあります(笑)。

『ダーリン・イン・ザ・フランキス』 パッケージのデザインラフ ©ダーリン・イン・ザ・フランキス製作委員会

あなたにとってのマスターピースはどの作品ですか?

市古 : 自分のクリエイティビティに大きな影響を与えた作品という意味では、大友克洋の『AKIRA』です。小学生の時に『AKIRA』4巻の装丁を近所の本屋さんで見て初めてグラフィックデザインに目覚めました。なんだこりゃ?カッコイイ!って。デザイナーになるきっかけを最初につくってくれたのは間違いなく『AKIRA』ですね。

あとは藤子不二雄の『まんが道』。これは藤子不二雄が漫画家になるまでの道のりを描いた漫画で、フリーランスとして働くためのビジネス書なんですよね。どうやって面白いモノを作って、他の人にそれを認めてもらうか、そういうプロセスがちゃんと描いてある。これが小さい頃から大好きで。自分にとって最初で最良のビジネス書です。

今にして思えば、フリーランスでグラフィックデザインをやってるのはこの漫画の影響だろうなって思います。

©名/NA

“マスターピース”の定義をどう考えますか?

市古 : 僕の解釈では、自分のクリエイティビティを形作るようなもの。大きく影響を与えるものです。

若年層のコンテンツの消費の仕方についてどう思いますか?

市古 : 今の若い人だからこう消費する、っていうのは一概には言えないと思いますね。実はメディアやコミュニケーションの方法が変化しているだけで、どう消費するのかっていうのは年代ではそれほど変わっていない気がしています。コンテンツを消費する方法って、時代っていうよりは人次第で、ただ観るだけの人、研究して評論する人、触発されて何か作る人、など消費するときのアクションに対する層で分けて考えたほうが見えてくるものがあるのかもしれません。

©名/NA
市古斉史(TGB design.) / Masashi Ichifuru (TGB design.)
1976年生まれ。グラフィックデザイナー。1994年に石浦克、小宮山秀明、市古斉史の3人でTGB design.を設立。関わった主なアニメーション作品に『フリクリ』『アフロサムライ』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版』『キルラキル』『ダーリン・イン・ザ・フランキス』など。